Design Philosophy


設計思想


Meridian計画はロボット開発に関するソフトウェアやハードウェアのリソースに対し, その全てを柔軟に繋ぐ中間プロトコルの策定と, 社会実装を目指すプロジェクトです.

その目的は, ヒューマノイドを中心とするロボットの制御や応用についての研究の裾野を大きく広げることであり, それが世界全体の技術力の向上と人類の進歩にも貢献しうると考えています.
これからの時代をつくる若者が, ロボットを学びたいと思い立った時に, ゲーム機を買うぐらいの気軽な初期投資で学び始め, そして続けられるような環境を準備していきたいと考えています.

Meridianは180バイト程度のコンパクトなデータ配列に過ぎず, とくに目新しい技術が含まれているわけでもありません. しかしこれがキーストーンとなり, 思いつく限りほぼすべてのリソースをつなぎうる補助線となります.

このMeridianをコアとして, 制御シミュレーション, CG, プログラミング, 機械学習, 人工知能, エレクトロニクス, メカトロニクスといった領域の海をひとつにつなぎ, これらの学習・研究をゲームのように楽しめるものにしていきます.


経絡(けいらく)の輪をつくる


Meridianは英語で子午線や東洋思想の「経絡」を意味します. ロボットを人間になぞらえた時, 人間の気の巡りに該当するものが, ロボティクスの領域においては情報であると捉えると, この情報のめぐりをなめらかにすることが, 開発においても要になると考えました.

ロボットが保持している状態データを, デバイスやPCとリアルタイムで高速にやりとりすることができるようになれば, それだけで情報のデジタルツインが実現しますし, リモートブレインなども容易になります. 情報の輪が生まれるのです.

さらに, そのデータがシンプルで可読性が高く, かつ廉価なデバイスでも動くようになっていれば, 誰もが気軽にその輪の中にジョインし, 研究を始めることができると考えています. これがMeridianのネーミングの由来とコンセプトです.


反ブラックボックス


ロボットを動かすための環境構築だけで何日もかかったり, 個人では買えないような高額なシステムでは, なかなか制御や機械学習といった研究の本丸に辿り着けません.
だからと言って, 教材玩具のように入手してすぐに動かせるようなものではなかなか理解が深まりません.

Meridian計画では, 難しい部分をラップして隠蔽することで扱いやすくするのではなく, むしろ逆に内部まで見える化した上での直感的なわかりやすさを実現することを目指します.

原理を理解できるようにすることで, 学習者が必要な部分を自らMeridianに追記して学習を進めることができますし, 修理や改造も自分でできるようになります. 秋葉原で売られているような電子部品を組み合わせてアイデアを実現する自由も得ることができます.


学習コストの削減


前項と相反する概念になるかもしれませんが, Meridianはなるべく学習の時間的コストを下げることに貢献したいと考えています.
そのために, Meridian自体の可読性を上げ, 理解しやすく保つことを重視したいと考えています.
さらに初学者のためのチュートリアルを充実させることで, 学習コストの削減を実現していきたいと考えています.
またMeridianでは既存の仕様や規格はなるべく採用するようにし, Meridianのためだけの学習がなるべく発生しないようにもしていきます.

学習の領域によっては, Meridianを導入すること自体のハードルが, 制御などの学びの妨げになることもあるかもしれません. しかし, 前項で述べたようにベースとなるMeridianの技術を透明化しておけば, 他の人が不要なコードの流れを隠蔽したり, ハードウェアキットを制作することが自由にできます.
まずは透明化ありき, 隠蔽はその後で. 学習者がもし隠蔽された内部に興味が出ても, 透明性がゆえに見通しよく理解できるということを期待します.
大事なのは, 学習者が, 興味をもち学習したい領域に最短距離で到達できるようにすることです.


お手軽さの重視


誰もがMeridianを通じたロボット開発を気軽に楽しめるようにしたいと考えています.
マイコンなど製品の入れ替わりがある程度激しいとは思いますが, なるべく入手性のよいもの, 価格が安いもの, 壊れても買い替えたり修理しやすいものなどを考慮しつつ, 再現性の高いシステムを構成したいと考えています.


やる気エネルギーを貴重なリソースとして捉える


ロボット開発に興味を持つ人口には限りがあります. さらに, 開発に興味を持った人の時間や集中力といった資源にも限りがあります. やる気エネルギーは, 人類の技術進歩に必要な推進剤であり, それはゴールドのように貴重な資源です.
人の探究心をモチベートする やる気エネルギーの源泉は, 楽しさや面白さに他ならないと考えています.
わかった!たのしい!という快感が脳内報酬として得られる限り, 人は学んだり研究したりし続けることができると思います.
既存の難しい教科書の内容も, 実機やシミュレーターで動かしながら学べば面白さは倍増します.
Meridianを使ったコーディングなどを通じて, 物理法則を理解する学習本来の楽しみや, 計算した通りにものが動く喜びを提供できればと考えています.


多様性への期待


Meridianが統一規格のようになることは特に目指しておらず, 既存の規格と競うこともしません. しかし, 複数の規格や基準が混在して困るという場面において, Meridianが選択の基準となったり, Meridian経由で両方の規格を使えるようになるということは目指したいと考えています.
世の中にあるさまざまなソフトウェアやハードウェアといったリソースを自由に組み合わせて使えるようにすることで, それが多様性を生みさまざまな新しい研究につながることを期待しています.  


あるものは使う・ないものは作る!(だけとも限らない)


新しい規格を作ることがMeridianの目的ではありません. 使用が許されている規格や仕様は, Meridianとしてもどんどん取り込んでいきたいと考えています. あるものは使う, ないものは作る!が基本精神です.
しかし, すでにあるものを改めて作るということも, とても良いことだと考えています.
学習者本人が作りたいと思ったのであれば, すでに存在するものであっても, 実際に自ら作ることを通じて学ぶ権利と自由があります. すでにあるからと言って, 作りたいという好奇心やその学習の機会を他人が剥奪していいわけがないのです. そこに生じた貴重なやる気エネルギーを, 無駄にしてはいけません.
作って学び, 新たな好奇心につなげることこそが, 技術の進歩への近道であると考えます.